2004年08月21日

選択

社会人になってから、私は下北沢のアパートに引っ越した。
上下で6世帯しかなく、下はすべて男性。
2階は女性しかいなかった。
駅歩5分でベランダも広く、8帖の和室に押し入れ1間、
1帖分の板の間、キッチンは7帖程の洋間、お風呂とトイレが別で優良物件だった。
私は真ん中で、私の部屋の手前には、ひとり暮しのスチュワーデス、
奥には沖縄出身の美人姉妹が住んでいた。

ある夜、私が仕事から帰ると、階段に中年の男性がひとり、
スチュワーデスのドアの前に、中年の女性が立っていた。
私が男性を見やると、バツの悪そうな顔をしていた。
女性の前を通りすぎようとしたとき、
「あなた、お隣りの方?!」と聞かれたので、
「はい・・そうですが」
「この写真の男性を見た事ないですか?」
と、1枚の中年の男性の写真を見せられた。
隣りに時々男性が来ているらしいことは薄々気付いては
いたが、この人かどうか分からなかったし、
私は直感的に関らない方がいい気がしたので
「ないです」
と、きっぱり断って部屋に行こうとしたら
「ほんとに、本当にないですか?!よく見て下さい!
この女の所にしょっちゅう来てる筈なんですよっ!
庇うのならあなたも同罪ですよっ!」
痩せ気味の、キツイ顔をした女性は、声を荒げて私に
詰め寄った。私は事態を諒解したが、関るのはごめん
だったので、もう一度写真を見るフリをしたあと、
「お会いした事無いです。私は何もわかりませんし、
庇ってもいません。失礼します。」
と、振り切り、部屋に入った。
女性は、隣りの部屋のドアに向かって
「あなたが開けないから、お隣りの方にも迷惑でしょう!?開けなさい!」
(っていうか…あんたが迷惑なんだろ!?)
「ここに証人も来てるんだから、中で話し合いましょう!?」
(あ〜それであの男性が…可哀相に。どうりでバツの悪い
顔してたんだ…)
「あなたって本当に恐い人ね。うちの主人と付き合いながら、独身の○○さんともお付き合いしてるそうじゃない!?恐ろしい女ね〜。私は絶対主人とは別れませんからね。主人もそう言ってます。はやく開けてちょうだい!
ご近所の方にも迷惑でしょう!?」
「帰って下さい…」
消え入るような彼女の声がした…。
「すみません。帰って下さい。」
それを聞き、逆上した中年女性は、叫びながら狂ったようにドアを叩き続けた。今にも、ドアを突破して、中に押し入りそうな勢いだった。
閑静な夜の住宅街に、下品な罵声が響き渡った。なぜだか心苦しかった。
隣りの彼女のした事は、責められるべきことだと思う。
ただ、そうさせた原因が、果たしてこの妻になかったと言い切れるのだろうか?!
勿論経緯がわからないのでなんとも言えないが、もし、
私がこの妻の立場だったら、少なくともこんな手段は
取らない。

2人の珍客が去って間もなく、北沢警察署から警官が来た。誰かが通報したらしい。

「私が通報したと思われたら嫌だな〜」

そう思ったが、刃傷沙汰でも起きそうな勢いだったので、
だれかが通報するのも仕方なかったろう。

その後、何度か彼女と顔を合わす機会があり、何事も無かった様に接したが、ついぞ、彼女の口から
「あの時はすみませんでした」の一言も聞かれなかった。
いや、言葉はいい。ただ彼女の瞳の奥にも、不本意であったにせよ、他人に迷惑を掛けた事への贖罪の気持ちが少しも垣間見えなかったのだ。
それまで私は彼女に対して同情的だったが、ある意味、
あの、般若顔の妻と彼女も
「どっちもどっちだな」と思った。

所詮人間は、肌触りに違いこそあれ、本質的には変わらないものを繰り返し選んでしまうものなのかもしれない。

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posted by Cimbombom at 18:52| Comment(3) | TrackBack(0) | 本当にあった怖い話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
下北ですか。
マジスパありますよね。
いいですねー、自分も下北に住むのが夢です。
Posted by shinji at 2004年08月22日 02:04
下北からは、もう越しちゃったんですよ〜。
懐かしいです。

下北、いいですよね。
Posted by Cimbombom at 2004年08月24日 00:35
カレーだと、ふらんす亭によく行ってました。
今もあるのかな〜?
Posted by Cimbombom at 2004年08月24日 00:42
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